早稲田大学Vtuber研究会ブログ

早稲田大学Vtuber研究会の公式ブログです。本ブログの記事は個人の意見であり、サークルの総意ではない場合があります。

Vtuber文化の二面性 ~ネット人格と二次元キャラクター~

こんにちわせだ!早稲田大学Vtuber研究会3年のわさです
今回はVtuber文化はどこから来たのか?」について書きたいと思います

 

Vtuber受肉論ではなくVtuber文化論

Vtuberブーム以来、オタクたちはずっとVtuberについて論じてきました。
しかしその多くでは「現実vs仮想」「中身vs外見」という構図ばかりがピックアップされがちでした。現実世界と仮想世界のぶつかり合い・融合というテーマは昔からオタクが大好きな話題ですから、盛り上がるのは当然でしょう。しかし、それはVtuberになること、つまりバーチャル受肉の構造に重きをおいていて、Vtuberコンテンツのあり方やVtuber文化全体については十分に説明できていませんVtuberの動画や実況動画を楽しんでいるとき、「現実vs仮想」「魂vs外見」という構図があると言えるのでしょうか?むしろその構図に目をつぶって楽しんでいるのではないでしょうか。
Vtuberをモデルの中身・外見の関係の点からだけでなくVtuber文化全体を俯瞰して見る際もっとも重要なのが、Vtuberは日本のネットコンテンツの中でどう位置づけることができるのか?という観点であると考えます。

 

ネット人格

日本のインターネットには様々なコンテンツが存在しますが、その中で非常に大きいものの一つがネット上の人物の存在です。例えばYouTuberやニコニコ生放送主、ゲーム配信者、歌い手、ブロガーのような、インターネットに個人として存在しコンテンツを作ったり放送したりする人々といえばいいでしょう。そして、組織として活動するというよりは個人中心で活動する存在でした。彼らはその人間関係や言動を含めたものが評価され、存在自体がコンテンツと化しています。これらをネット人格と呼称することにしましょう。

 

二次元キャラクター

次に、それよりも更に巨大なネットコンテンツとして、創作上の二次元キャラクターを推すという文化を無視することはできないでしょう。漫画・アニメ・ラノベ・ゲームというコンテンツを消費するだけでなく、それらが生み出した二次元キャラクターを愛し、二次創作が行われてファンのコミュニティが盛り上がっていくというコンテンツです。これはネット以前から存在した文化ですが、インターネットの普及によって同志が集まれるようになり二次元キャラクター文化は盛り上がったと言えます。二次元キャラクターは前述したネット人格とは異なり、どこまで行っても誰かが作り出した「画面の中の存在」でしかなく、こちらに反応してくれる存在ではありませんでした。

 

Vtuberの二面性

ここで最初にバーチャルYouTuberを自称し始めたキズナアイについて考えてみましょう。彼女はバーチャルYouTuberを自称したということはインターネット上の一個人として、つまりネット人格として活動するということであったはずです。
しかし同時に、キズナアイのキャラクターデザインはインターネットのこわい人たちに怒られるくらいにコテコテの、いわゆる「萌キャラ」でした。このようなオタク受けを狙ったような外見からも、キズナアイが3Dモデルとはいえ二次元キャラクター文化の上に存在していることは明らかです。
つまりバーチャルYouTuberを自称するキズナアイはネット人格と二次元キャラクターの両方の要素を持つ存在であると言えます。そして、そのキズナアイの影響のもとで生まれたVtuberの多くはそれを踏襲しています。
Vtuberはネット上の個人として活動する存在でもあり、二次元キャラクターでもあるのです。

f:id:waseda_vtuber_kenkyukai:20190619023535p:plain

Vtuberは2つの要素を持つ


もちろんこれは一様にそうというわけではなく、動画投稿が主な企業勢のように企画に沿って動画を作成し投稿する二次元キャラクター性が強いVtuberがいる一方で、個人勢やにじさんじのように、Live2Dのような技術で二次元キャラクター性を保ちつつ個人による生配信中心に展開するネット人格性が強いVtuberもいます。
この二面性を軸にVtuberを理解するならば、VR技術はネット人格と二次元キャラクターの2つをつなぐものとして重要になってくるでしょう。

f:id:waseda_vtuber_kenkyukai:20190619023537p:plain

技術の進歩が2つの文脈を融合した

 

Vtuberの多くがやっていることは結局、YouTuber・生主・ゲーム配信者・歌い手とほとんど変わりません。その意味で、「Vtuberは生主・ゲーム実況者と何か違うのか」という疑問は理解出来ます。しかし、Vtuberと彼らの最大の違いは二次元キャラクターであるかどうかということです。
では、その差異がどのような意味を持つのでしょうか?ネット人格が二次元キャラクターであること、そして逆に二次元キャラクターがネット人格を持つことのメリットについて考えます

 

ネット人格を二次元キャラクターにする意味

簡単に言えば、「YouTuberや生主、ゲーム実況者が二次元キャラクターのお面をかぶるということは何をもたらすのか」という話です。

これは単刀直入に言えば二次元キャラクターは魅力的であるということに尽きます。ただし魅力的といっても、「三次元は醜く二次元は美しい」という短絡的な話ではなく、二次元キャラクター文化というオタク文化の文脈に回収することができるということです。三次元の人間に存在する生々しさを感じさせない可愛らしく親しみやすい存在になることで、二次元キャラクター需要にアプローチすることが可能になります。

また、匿名性を保ちながら顔を出すことも可能になります。3Dモデルや2Dモデルとはいえ、顔があるということで声だけと比べて認識されやすくなります

実はこのようにネット人格を二次元キャラクター化したりすることはVtuber以前から存在していて、二次元キャラクターをアイコンにする生主などはそうであったと言えるでしょう。しかし、モデルの顔認識とリップシンクでネット人格・二次元キャラクターが強力にリンクし、同一の存在とみなされるようになったのはVtuberの特徴と言えるでしょう。


さらに、二次元キャラクターになったことで二次創作が作られやすくなります。日本の二次元キャラクターコンテンツにおいて、二次創作はファンの囲い込みや宣伝において非常に重要な意味を持ちます。有名絵師がそのキャラのイラストを描くだけで莫大な宣伝効果があるでしょう。これは二次元キャラクターの要素があるからこそのメリットです。


そしてあまり注目されない点でありながら無視できないのが、ビジネス化の余地が大きいというメリットです。これまで生主やYouTuberのようなネット人格たちは基本的に個人で活動が完結し、事務所に所属してもマネジメント程度でした。しかし、Vtuberはモデルの作成・スタジオ収録・動画編集など様々なサポートが必要であり、運営組織が存在することが前提となりました。これだけだとデメリットのように見えますが、実際にはその運営組織の存在によって大きなイベントの開催やコンテンツの急速な拡充ができているといえます。資本主義のチカラってすげー。ですが個人勢がいることからも分かるように、個人でも心血を注ぐか、Live2DやFaceRigを使って生配信を中心にすれば組織に属することなく活動することも不可能ではなく、資本主義に完全に飲み込まれることなく文化が営まれています。

 

二次元キャラクターに人格をもたせる意味

よりわかりやすい言い方をするなら、「二次元のキャラクターにいわゆる魂を入れて動かすことはどのような意味を持つのか」という話です。

まず、コンテンツの提供量・提供頻度を増やすことができるということがいえます。たとえばアニメの場合、キャラクターを動かして1分の動画を作成するのには膨大な時間がかかりますが、Vtuberは動画と音声を同時に撮ることができるため極論を言えば1分で動画を作成することができます。配信中心の活動スタイルはその意味で非常に効率が良いと言えます。また、Twitterアカウントでコミュニケーションをとったり身近なことをツイートするだけでも、コンテンツを提供できます。魂のない二次元キャラクターと比べ、魂の入った二次元キャラクターであるVtuberは膨大な情報とコンテンツを生み出すことができます


そして、上の二次創作の話とも繋がりますが、Vtuberは消費者に対して反応するということも重大なメリットです。これまで二次元キャラクターの二次創作は無数に生み出されてきましたが、その二次元キャラクターが実在しない以上、本人に見てもらうということはありませんでした。しかし、ネット人格である二次元キャラクターはネット人格としてネット上に実在するため、二次創作を本人に見てもらうということが可能になりました。

 


これは二次創作の力を最大限に引き出す動機づけとなり、イラスト・MAD・切り抜き動画等、優れた二次創作が生まれ、それによってファンコミュニティが盛り上がり新たなファンを獲得してきました。

 

二面性による軋轢

このようにネット人格と二次元キャラクターの二面性を持つことで強大なコンテンツに成長したVtuber。しかし2つの要素を抱えるということは、両者の悪い点を含むというだけでなく、二面性を持つがゆえの軋轢も持ってしまったということです。
特に大きいのが、活動における個人への負担、そして依存という問題でしょう。組織が関わる二次元キャラクターという要素と、個人でしかない人間としての要素が併存している以上、この軋轢はどこかに生まれてしまうのかもしれません。しかし、コンテンツの持続にとっても個人への過度な負担・依存は悪でしかありません。慎重なバランス感覚が要求されるのは言うまでもないでしょう。

 

f:id:waseda_vtuber_kenkyukai:20190619035721p:plain

Vtuberとネット人格と二次元キャラクターの傾向の比較

まとめ

このように、Vtuber文化をネット人格と二次元キャラクターの両方の要素を持ったものとして位置づけ、その意味について考えました。

Vtuberというコンテンツをネットに存在する個人・二次元キャラクターという2つの面から考察することで、より実質的な理解につながっていくのではないでしょうか。

 

(早稲田大学Vtuber研究会3年 わさ)

バーチャルYouTuber・Vtuber・バーチャルライバーという呼び方

 バーチャルYouTuberVtuberバーチャルライバーなど、Vの者の呼称はたくさんありますね。それらはだいたい同じ物を指しているのですが、少しニュアンスが異なっていて、インターネットで言及するには厳密な区別が必要です。

 そこで、バーチャルYouTuberVtuberバーチャルライバーという言葉について、一度考えておきたいと思います。

 

バーチャルYouTuber

バーチャルYouTuberとは主にYouTube上で動画等の配信活動を行う架空のキャラクター群を指すのに用いられる呼称である。

(ニコニコ大百科 - バーチャルYouTuber)

 バーチャルYouTuberは、この文化の火付け役であるキズナアイが使い始め、現在一般的にVの者を指すのに使われている言葉です。だいぶ一般社会に溶け込んできたYouTuberという存在のバーチャル版のような存在であることが、単語を聞いただけで何となく分かり、長くて言いにくいことを抜きにすれば最もわかりやすい呼称ですね。しかし、Vの者全体を指し示すには多少の問題があります。

 バーチャルYouTuberとは、名前に忠実に考えるとYouTubeで活動する架空のキャラクターたちのことですが、SHOWROOMOPENRECで活動するキャラクターも増え、最近ではBilibiliにも進出して、YouTubeというプラットフォームにこだわることなく活動しています。また、ニコニコ動画において人気を獲得したり動画を投稿したりするキャラクターも多いですね。そのようなVの者をYouTuberという呼び方をするのは適切ではないかもしれません。

 さらに、YouTuberとはYouTube上で「やってみた」等を投稿するHIKAKINやSEIKIN、はじめしゃちょー等に代表される動画投稿者ですが、バーチャルYouTuberは単なる従来のYouTuberのバーチャル版とは言い切れない独自の進化を遂げています。

 

 したがって、バーチャルYouTuber」という呼称は彼らの一面しか表せていないところがあります。

 

Vtuber / VTuber

 バーチャルYouTuberは略してVtuber」と表記されます。「Vtuber」という呼称は短くて打ちやすいのはもちろんですが、YouTubeというプラットフォームを強調せずに済むため、YouTubeに縛られないVの者も含めた、広範なVの全体を指すことができます

 「Vtuber」のほかに「VTuber」という表記もありますが、これはYouTubeのTが大文字であることに由来するので、プラットフォームがYouTubeに依存しないことを強調する立場からは「Vtuber」という表記のほうが適しているでしょう。

 ただしこの呼称の問題として、Vtuberを知らない人が呼称だけを見聞きしてもどんな概念なのか理解することが厳しいということが挙げられます。知識もないのにいきなり「ブイチューバー」と言われても知らない楽器とか機械の名前にしか聞こえないかもしれません。

 

バーチャルライバー

 また、彼らの中には生放送メインで活動していることから、自身をバーチャルライバーと呼んでいるキャラクターもいます。たとえばにじさんじはその典型で、多くのキャラクターが頻繁に生放送を行い、膨大なコンテンツを提供することを可能にしています。

 Vの者は全体として生放送が多いのが特徴ですが、一方で動画投稿を主軸として活動しているキャラクターも多数いるため、Vの者=バーチャルライバーと言うことは難しいかもしれません。

 

バーチャルタレント

 他のと比べると知名度は低いのですが、バーチャルタレントという呼称もあります。たしかに人気を得て様々なメディアやイベントに出演する様子はタレントといえます。ただし、タレント的な活動をするキャラクターもいる一方で、動画主体のアーティストのようなキャラクターもいます。後者をバーチャルタレントに含めることは難しいです。つまり、Vtuberであってもバーチャルタレントではない人がいるといえます。

 また例えば、バーチャル小林幸子さんやAbemaTVで放送していた『にじさんじのくじじゅうじ』に出演していたタイムマシーン3号の二人はバーチャルに受肉した芸能人なのですからバーチャルタレントと呼べますが、Vtuberと言うには抵抗があります。バーチャルタレントであってもVtuberではない人がいるということになります。

 

f:id:waseda_vtuber_kenkyukai:20190429050910p:plain

Vの各呼称のベン図

 

まとめ

 このように、いろいろな立場から呼称について検討してみました。それぞれの名前が指す対象が微妙に異なりつつも重なっていて、場面に適した名称を用いるのが適切なようです。

 このブログでは基本的に「Vの者」の概念を指し示すのに、一番短く、一番「Vの者」の概念全体に合致し、我が早稲田大学Vtuber研究会の名前にもなっているVtuberという呼称を使いたいと思います。

 

Vtuber研究会の名前はそこまで考えて名前をつけたわけではないと思います。

早稲田大学Vtuber研究会 ブログ開設

早稲田大学Vtuber研究会です。ブログを開設しました。

 

当会は、早稲田大学Vtuber好きが集まってVtuberについて語ったり実際にVtuber運営を行ったりする等、Vtuberに関係することを全般的に行う、2018年末に結成された新規サークルです。当初は3人しかいなかったのですが、おかげさまで2019年4月現在36名が在籍するサークルになりました。留学生数名や他大の学生数人も参加し、性別以外は多様なメンバーになっています。

 

現在FaceRigを使用した2Dモデルを作成中で、5月中旬のYouTubeデビューを目指して活動しています。

 

このブログではVtuber運営等で気づいたことのまとめやイベントの感想Vtuberについての考察などを載せていく予定です。

 

公式Twitterこちら

twitter.com

 

よろしくお願いします!